度肝を抜くようなお話はいらない

普通の人生に幸せがある

ここ数年、私はあまりテレビドラマを観る気になれません。
予告編を見ると観たくなくなってしまうのです。予告編だけで、アラがいっぱい目についてしまうのです。

かくいうい私ですが、かつてテレビドラマを観るの好きでした。
もともと演劇でご飯を食べていた経験もあるので、演技やドラマの展開にも興味があったからです。

最近の映画で言えば「男はつらいよ お帰り 寅さん 」には心が洗われた気がしました。

いいドラマを観ると元気になるのです。

残念な大河ドラマ

この1月からの連続ドラマでは「麒麟がくる」と「テセウスの船」は観はじめました。

「麒麟がくる」の方は明智光秀を主人公とは面白いかも、と思ったからです。

しかし、3回にしてもう話についていけません。鉄砲を手に入れるために堺に行き、名医を連れていくために京都に行きと、トントン拍子に事が進み、いざ戦になると大活躍。

まぁその通りだったのかもしれませんが、話がうますぎる気がして仕方がないのです。もっと紆余曲折や苦労があるだろうと思ってしまうのです。

全体の話をすすめるためには、ある程度端折るしかないのかもしれませんが、やりすぎだろうと想うのです。

これでは若い頃の明智光秀は、運だけで生き抜いた男みたいじゃないか、と感じてしまうのです。

そして、ネットなどでは評判が良いようですが、斎藤利政(道三)役の本木雅弘さんは、声の迫力は良いとしても、いったい何を言っているのかがよくわからない。「おくりびと」の主演と同じ人とは思えないくらい雑なお芝居にがっくりしました。

合戦のシーンもお金を随分かけて、スタントも激しいことは見えるのですが、作り物の匂いがプンプンするのです。

もちろん、キャストもスタッフも全力を尽くされているのでしょうが、、

もっと残念な空想非科学ドラマ

「テセウスの船」は予告編から「あかんやろ」と思いながらでしたが、予想を超えて残念な仕上がりでした。

だいたいタイムスリップものに、私は期待していません。フォローしきれない矛盾が出る可能性がたくさんあるからです。唯一の例外と言っても良いのが バック トゥ ザ フューチャーシリーズ ですかね。

それでも私は鈴木亮平さんのファンなので、ダメ元で観はじめたのでした。

まず、未来から過去にタイムスリップしたあとの竹内涼真さん演じる田村心の反応が、ちょっとそれはないだろうというレベルでした。それを受け入れる側の鈴木亮平さん演じる佐野文吾さんの行動も理解し難い支離滅裂さでした。

また登場人物も怪しかったりおかしな行動をする人ばかりと言っても過言ではないのです。まったく世界に入っていけません。佐野家の子どもくらいしか、心を寄せたい人が出てこないのです。

荒唐無稽な設定でも、その設定に対する人の心の動きや行動が「さもありなん」と思えるものなら良いと思います。

初期の頃のスター・ウォーズや人形劇のサンダーバードでも、私は心を打たれましたから。

まぁ、私が歳をとってしまって、ロマンに浸れないということなのかもしれませんが。

もちろん良いドラマもある

しかし今年になって、引き込まれるドラマもありました。それは、NHKの土曜ドラマ「心の傷を癒やすということ」です。阪神淡路大震災後の実在する精神科医の生きざまを描いたヒューマンドラマです。

登場人物に違和感を感じないのは実在の人物をベースにしていることがその理由ではありません。実話をもとにしていても見るに耐えないようなリアリティのないドラマはいくらでもあります。

でもこのドラマは話の組み立ても、実によく考えられているのです。そして、役者さんもスタッフさんもていねいに仕事をされていることが伝わってくるのです。

何より主人公の柄本佑さん演じる安和隆の存在感が素晴らしい。もう一つ出色なのが吉本新喜劇の内場勝則さん演じる校長先生。震災後の不条理と辛さの中で行きていく力をしぼり出し、頼りにし合う人達のありようが気持ち良いのでした。

何度でも観たくなるドラマですが、あと一回で終わりです。

このドラマだけでも、今年のNHKの受信料を払ってもいいかな、と思うくらいの作品だと思いました。

でもまぁ、受信料を取って「公共放送」を自負するのなら、アーカイブはネットで無料で公開してもいいだろう、と思いますが。


ともあれ、特に度肝を抜くようなお話ではなくても、人の気持ちを動かすことはできるのです。

ありきたりの人生のなかに命の輝きと感動があるのです。

私も普通の人として生き抜こうと、あらためて思えた、幸せなドラマでした。